【RFTを考える】

 RFTとはRichest Field Telescopeの略で、その口径において、最も明るい(視野の中の星の数が最もリッチとなる)倍率を持ちます。この倍率は、人間の瞳孔径が最大で約7mm前後まで開くことから、対物レンズの口径を7で割った倍率(有効最低倍率)となります。

 ところが双眼鏡や望遠鏡の倍率の選択と瞳径を語る場合、瞳孔反射と暗順応を混同して、瞳径7mmとは「自分の手のひらさえよく見えないような漆黒の闇の中で充分な時間をかけて順応させた場合にようやく得られる瞳孔径」だと発言し、そのような暗闇は現実的に無いからせいぜい3〜4mmしか瞳孔は開かず、瞳径7mmの倍率は口径の無駄である…という論理展開をまことしやかに語り人を惑わす輩がいますが、これは大きな間違いです。

同様に屈折望遠鏡には有効最低倍率が無く、瞳径が7mmを大幅に越えても口径(集光力)の無駄にならないと論じるテレビューのアル・ナグラー氏も誤っています。
光外地で瞳径が3mm程度しか開かないのが事実であるならば、8×24と8×56の双眼鏡で星雲を見比べた場合に同程度にしか見えないことになりますが、これは明らかに違います。
瞳径3mmの双眼鏡である8×24はデイライト用(明るいときの人間の瞳は3mm程度)で、星雲星団の観望に使うとあからさまに暗くなります。

例えば瞳径2mmと7mmの光量差は、
 7^2/2^2≒12
たかだか12倍程度の光量差になります。日中野外の写真撮影における適正露出はISO100・F8で1/250秒程度ですが、光害地の夜間と言えどISO400・F2.8で1/2秒でも適正露出にはならず、この光量の差は4000倍以上です。人間の目がこのような大きなダイナミックレンジに対応できるのは瞳孔径による光量調整ではなく、主として網膜の感度の変化によるものです。
カメラの例で絞りに相当する瞳孔反射はごく短時間(概ね瞬時)に起こり、フィルム感度に相当する網膜感度の変化…特に完全な暗順応は20分以上…と非常に時間がかかります。

もう一つの例を上げるなら、2等星しか見えない空の明るさと6等星まで見える空の明るさの差は2.51^4≒40倍であり、これですら先述の瞳孔径の7mm→2mmの調整によるダイナミックレンジの3倍以上も明るさが違うわけで、もし、網膜感度を考慮しないなら、6等星の見える夜空で目いっぱい瞳孔を開いてちょうどいいのだとすると、2等星までしか見えない夜空では眩しくて目が開けていられない話になりますが、光害があろうとも夜に眩しくて目が明けられないなんてことはありえないので、夜空の明るさと瞳孔径を語ること自体に意味が無いことが分かります。
(光害地でも瞳孔はその人の最大径まで開く)

また、加齢による最大瞳孔径の低下を論じる話においても、個人差があるものの、何mm単位で小さくなるわけではなく、中年になって5mmも開かなくなると考えるのはおおげさな話であり、40歳前後の年齢を考慮して考えた場合であっても、瞳径6.0〜6.5mm前後に最低倍率を設定する価値は充分にあると思われます。

少し専門的になって難しいかも知れませんが、以下に瞳孔反射と暗順応についての正しい生理学の記述を行います。


瞳孔反射は虹彩という絞りを筋肉が反射によって調整するため、0.2秒ほどの瞬時の反応時間です。瞳径は論理的には1.5〜8mm程度の調整範囲(通常は2.9〜6.5mm程度)なので、人間の感じる光の強さのダイナミックレンジ(10^9)に対してまるで足りません。
これを補うのが明順応と暗順応です。

網膜には3つの細胞層がありますが、視細胞が錘体と杆体で構成されます。
錘体は中心窩に多くあり明視を、杆体は外節中(周辺)にあり暗視を担っています。暗い対象を見るときは視線をそらし気味にするのはこのためです。

夜行性動物は網膜が杆体で構成されていて、杆体網膜といいます。
昼行性動物はその逆で錘体網膜を持ちます。人間のように両方がかなりの割合であるものを混合網膜といいます。
杆体は感光色素ロドプシンにの蓄積によって感度を得ます。ロドプシンは光を受けると破壊されてしまいます(明順応)が、暗い場所では時間をかけて蓄積してゆきます(暗順応)。

錘体の暗順応は4〜5分で感度上昇の漸近線付近に到達します。ここまでは560nm(黄色)に最も感度があります。さらに待つと7分ぐらいで一旦漸近線で水平状態の感度が上がりはじめます。杆体の暗順応です。これは錘体の暗順応開始から20分程度で漸近線近くの感度になりますが、その後も1時間程度にかけてわずかに感度が上がります。暗順応後は感度のピークがロドプシンの感光特性と同じくピークは500nm(青緑)になります。このよう な感度のピークが変化することをプルキンエの移動と呼びます。
明順応と暗順応は感度にして10^6倍の差があります。
杆体は赤色光の刺激には反応しませんので、懐中電灯を赤色にしておけば、錘体だけが明順応するため、たとえ明順応が起こっても錘体だけで時間のかかる杆体の暗順応を待たなくてもすむということです。
業界人は赤いサングラスをするそうです。
片目だけ眼帯をして光を遮断することで、闇に入った瞬間に眼帯を外せば、そちらは暗順応完了状態でただちに感度が得られます。
暗順応はロドプシンの光化学反応なので、左右独立に起こります。
一方瞳孔反射は、光を当てない方の目も同時に起こります。